大和撫子についての考察(1.5)
さて前回、礼節をわきまえ、引っ込みすぎず出過ぎない「大和撫子」の起源を、クシナダヒメとオトタチバナヒメの「力」、そしてその象徴としての「櫛」というところまで来ましたが、前回レポート後、友人に吉野 裕子著『山の神』を教えてもらい、早速読んでみると、今回のテーマにまさにドンピシャ。ギリシャ神話の話に行く前に、こちらの本についてひとつ、書いてみます。
「蛇」だらけの古代日本信仰
とにかく、蛇だらけです。例えば前回挙げたスサノオのオロチ退治。オロチはもちろん蛇です(オロチ=嶺の霊。蛇行する山脈の嶺を蛇に見立てた)が、テナヅチ・アシナヅチも「手無し霊、足無し霊」=蛇。クシナダはその2人の間の子なのでやはり蛇。また、稲田の守りであるカカシは蛇子(この辺の解説は本に詳しく載っています。古語で蛇は「カカ」とか「ハハ」と読んだそうです)だから蛇、という解釈ができるようです。あぁ、登場人物がほとんど蛇になってしまった・・・笑
「じゃあ、蛇が蛇を食うって話になっちゃうじゃないか!」なんですが、オロチは祖霊(大いなる自然の荒ぶる神)であるのに対し、テナヅチ・アシナヅチ・クシナダは人間の側に立つ穀霊、という区別があります。
古代日本の蛇信仰は、山に対する信仰と深く結びついており、上述のオロチも山ですし、大神神社のご神体である三輪山は「蛇がとぐろを巻いた姿」とされています。時に洪水を起こす川、噴火し流出する溶岩や土石流、それら全てが山に起因し、全てが「蛇の形」を取る、荒々しい自然の姿を象徴しています。一方、生物としての蛇は、稲作の敵・ネズミを捕食する有難い生物、噛んだだけで命を奪う危険な生物、脱皮し、死と再生を繰り返す不思議な生物と、人間にとって多様な面を持っています。これら全てを踏まえ、「蛇」が日本人にとって特別な存在であり、信仰対象であったため、様々なアイテムが蛇に結びついていくのです。例えば櫛や箸、箒、笠と蓑、しめ縄など。
「櫛」をさらに深読みする
前回、「櫛」は女性が持つ力の象徴と推測しましたが、吉野さんによると、櫛は蛇を象徴するものです。上記クシナダが蛇という点、また他にも、大神神社の祭神、大物主神は櫛に自らの正体、蛇を示顕させるというくだりがあります(箸墓伝説)。
一方、吉野さんは女性が持つ力についても言及しています。前回例に挙げたクシナダとオトタチバナヒメのエピソードももちろんですが、もうひとつあって、ヤマトタケルが難題にでくわすと、いつも伊勢神宮の叔母に会いに行き、問題解決のためのアイテムをもらうのです。女装の服も、草薙剣や火打石も、叔母にもらいます。
そして、彼は「剣を持たずに」伊吹山にのぼり、死んでしまうのです。つまり、女性の力で護られていなかったから、死んでしまったのです。逆に言うと、女性の守護力は、きちんと付与されていれば、荒ぶる神とも拮抗する強さがあると考えられていたという事です。
さて、櫛に戻ると、生活用具としての櫛はもちろん、女性と密接に関係するものです。これら全てを踏まえ、「櫛」は、蛇神に通じる女性の力を引き出す触媒なのではないかと、思うわけです。
・・ちょっと寄り道しましたが、とにかく、「大和撫子」の原型は、とんでもなく魔術的に強い女子だということです。じゃ次に行きましょう。
大和撫子についての考察シリーズ
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